容疑者Xの献身感想

今更かい?と思われるだろう。私もそう思う。
ほぼ一ヶ月前に観た映画の感想を書くなんて。しかし、それでもやっぱり書きたいと思わせる良い映画であったのだ。
正直、北村さんが出演していなければ劇場に足を運ぶ事はなかったろう。
先を申せば、北村さん演じる草薙の出番は少なくはないが、非常にあっさりしたものだった。
ドラマでのあの感じというか、「なんか映ってるけども」的な感じだ。
ファンとしては「何故もっと北村さんを。北村さんならではの。」と思うこともあったが、この映画において草薙刑事の役割は事件捜査をする刑事、それだけなのだ。
「監督の要求に応える」のが俳優なら、北村さんはその仕事をこなしていたと思う。
この映画の主役は石神と靖子なのだから。
湯川博士ガリレオの名を借りた、石神と靖子の物語であった。


この映画、石神演じる堤さんの圧巻であった。
劇場に行く前、うっかり「舞妓〜」を思い出し(念の入ったことに少し前に地上波OAなどあった/笑)、「ショートホープの人」が頭から離れず、観賞に難儀するんじゃないかと思ったのはまったくの杞憂であった。
映画冒頭はCxお得意の派手な仕掛けで始まり、「おお?」と興味をそそる。
「つかみはOK♪」なんて茶化しながら観始めたのだ。
湯川と内海がいつものチャラい(笑)掛け合いをする。
「全部化学で割り切れないと思います!」
「例えば?」
「・・・愛・・とか。」
「i?」
そこで湯川のお得意の一説が始めるのだが、後にハッとした。それは一番の伏線であった、と。


石神はむさいおっさんである。
あの「ガリレオΦ」での青年時代、の精鋭の欠片もない、薄汚れたさえないおっさんである。
眼が死んでいる。動きが無気力である。
堤さん、ここまでしなくても・・と思うほどの熱演である。
しかし、その石神がいつしか愛しく可愛く感じられてくるから不思議だ。
事件は起こり、それすらも方程式を解くための手順の一つのように、石神の元に湯川が現れる。
寂しい中年おやじの前に颯爽と湯川が来るのだ。
「唯一天才と呼べるのは石神だけだ。」
落ちぶれたようにみえた石神だが、頭脳は健在だった。
難解な数学の証明を玩具を与えられた幼児のように嬉々として、そして湯川が舌を巻く解答をしてみせる。
そのとき、湯川は「やっぱり石神はすごい」と思ったかもしれない。
しかし、石神は違うことを思っていた。
湯川と二人並んで歩く道すがら、ぽつり・・と漏らすのだ。己の恋を。
「湯川・・・お前はいつまでも若いな・・。」


映画をご覧になった方も多いと思うが、もしかして・・の方の為に詳細は省くが、映画大詰め、「献身」という意味に気がついた私は涙がとまらなかった。
何度も何度もウルル・・となったのだが、本当の真相を知った時、堪えきれず、泣いた。
橋の上から、「石神さーん」と靖子の娘が手を振る。
あの場面は石神に「生きてみようか。」そんな言葉が浮かんできた場面ではないだろうか。
石神は儚げな靖子に恋をしたのだろう。そして同時に靖子の娘も守ってやりたいと思ったのでは。
良い映画であった。
ENDロールを観ながら、「石神はこれから、愛と恋と友情とそして生身の自分、そんな4色問題をこれから永遠に解き続けていくんだろうか・・。」そんな余韻にようやく、眼尻を拭ったのだ。
劇場を出るとき、「もう一度見て見たい」と後ろ髪惹かれたのは久々の映画だった。


惜しむらくは、最後湯川が結局は友人を裁いてしまった事を悔やむ場面。
あそこは内海ではなく、草薙でやって欲しかった。
学生時代から繋がっている草薙にしてこそ、より湯川の苦悩と悲哀が増したと思うんだが。
尚、草薙的名場面もちゃんとある。
移送する石神を湯川に合わせる場面である。
この映画のもう一つのキーワード「友情」が示された場面であった。
・・・・・・・そのぐらいなきゃ、座席で不貞腐れるってーの(笑)

容疑者Xの献身